| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-211 (Poster presentation)
近年、越境大気由来の窒素降下物による汚染(以下、窒素汚染)が山岳生態系に与える影響が危惧されており、その実態の解明・評価が急務となっている。そこで、本研究では、生物指標を利用して山岳域における窒素降下物による汚染の実態を解明し、越境大気汚染が山岳生態系に与える影響について考察した。
八ヶ岳(長野県)の標高1800-2800mの範囲で複数の登山道から窒素汚染の評価に有効なコケ植物(Hylocomium splendens)と土壌を採取し、まず、各サンプル内の窒素の重量パーセント(N%)と安定同位体比(δ15N)を分析した。次に、この分析結果と生育環境(標高傾度・斜面方位)との関係について解析し、八ヶ岳全域における窒素汚染の解明を試みた。その結果、次のことが明らかなった。
(結果1)いずれの斜面方位においても、標高が高くなるとN%が低下した
(結果2)その一方、標高が高くなるにつれ、δ15Nは上昇した
(結果3)特に西斜面の高標高域においてδ15Nの値が高くなった
(結果4)コケと土壌のN%・δ15Nには有意な相関がなかった
ことが明らかになった。
以上より、本調査地では、窒素汚染は低標高域で進行しているが(結果1)、δ15Nの値に差があることから、Nの汚染源は低―高標高間で異なると推察される(結果2)。また、土壌がコケ内のNに与える影響は小さかったため(結果4)、標高間のNの差には大気降下物が関連していると考えられる。ここで、越境由来の粒子状物質に含まれる窒素は高いδ15Nを示すこと、および高標高域は越境大気汚染の影響を受けやすいことを考慮すれば、高標高域では越境由来の窒素汚染の影響が強く表れていたと解釈できる。越境由来の大気汚染物質は西風(偏西風・季節風)によって運ばれるため、とくに西斜面で強い影響がみられたのだろう(結果3)