| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-218 (Poster presentation)
東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により、福島県内に居住や営農が制限される避難指示区域が生じた。その後、部分的な避難指示解除が順次進み、現在、一部地域では居住や営農が再開されつつある。一方、引き続き、人の立入りが制限されている地域もある。このような避難指示とその解除に伴う一連の人間活動の変化は、里地里山景観を利用してきた生物相の分布に影響している可能性があり、長期的なモニタリング・評価が必要である。本研究では、鳥類群集を対象として、避難指示とその解除に伴う出現頻度の変化を、種の生息地特性に着目して調べた。
2014年から2017年の繁殖期(5~6月)に、避難指示区域の内外で鳥類の鳴き声を録音し、地点・種ごとの出現頻度を集計した。出現種を主な生息地に基づいて分類し、グループごとに、避難指示とその解除が出現頻度に与える影響を、階層ベイズモデルによって推定した。その結果、避難指示区域では、草地を主に利用する種の出現頻度が増加していることが示された。また、避難指示が解除された場所でも、避難指示を受けなかった場所と比べて草地性の種の出現頻度が高いことが示された。一方、森林又は林縁を主に利用する種については、避難指示が解除された場所では避難指示区域に比して出現頻度が低下していたが、避難指示を受けなかった場所と比べると顕著な差はないことが示された。
以上の結果から、避難指示区域では、農耕停止によって草地が増加し、草地性の種への正の効果が生じ、避難指示解除後もその影響が継続していると考えられる。また、避難指示解除に伴う様々な人間活動の再開は、森林性・林縁性の種に対する負の効果を生じうるものの、現時点では避難指示前と同等程度の出現状況が維持されていると考えられる。しかし、これらの傾向は、今後復興が進むにつれて変化していくことが予想されるため、モニタリング・評価の継続が必要である。