| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-219 (Poster presentation)
人間活動に伴う土地利用変化や気候変動は、今後100年間で生物多様性に大きな影響を及ぼす重要な要因であると考えられている。一般に、将来の気候変動に伴う生物多様性の損失は、温室効果ガスの排出量を削減するほど抑制可能と考えられている。しかし、厳しい温室効果ガス削減目標の下では、バイオエネルギー作物の大規模栽培や植林によって、土地利用が大きく変化すると考えられる。このような気候変動緩和策(以下、緩和策)による土地利用変化の影響は、生物多様性への影響評価を行う際に考慮されてこなかった。
本研究では、5つの主要な分類群(植物、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類)にまたがる8000種以上の生物種を対象に、全球スケールで潜在的生息域を予測するための種分布モデル(SDM)をMaxentにより構築した。また、種特性データベースを構築し、潜在的に分散可能な距離についても推定した。将来の気候シナリオとしては、WorldClimより5つのGCMの値を用いた。将来の土地利用シナリオについては、統合評価モデルAIM/CGEおよび土地利用モデルAIM/PLUMによる予測結果を用いた。評価対象期間は2050年代と2070年代とした。これらの結果を用いて、緩和策の実施に伴う気候と土地利用の変化が地球規模の生物多様性に及ぼす影響を評価した。
解析の結果、緩和策の実施に伴う土地利用変化の影響を考慮しても、温室効果ガスの削減は、地球規模の生物多様性の保全に正味の利益をもたらすことが明らかになった。この傾向は、特に2070年代に顕著であった。しかし、ヨーロッパやオセアニアでは、大規模な土地利用の改変に伴い、生物多様性が失われてしまう可能性が示唆された。本研究の結果は、生物多様性保全の観点から厳しい気候変動緩和策の実施を支持するが、地域の生物多様性を保全するためには土地利用規制を行うなど、慎重な設計が必要であると考えられた。