| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-223 (Poster presentation)
近年、シカやイノシシ、サルなど在来の野生生物による問題が深刻になっている。こうした軋轢の解消には、外来種のように根絶という目標を掲げる訳にはいかず、何らかの形で在来種の生息場所を確保する必要がある。しかし、その野生生物が人間の生活空間と生息場所を共有する「身近な生物」の場合には、どこかでなんらかの形で人間との「共存」を実現させる必要がある。そのためには、「共存」を可能にする要因を明らかにすると共に、人が在来種をどのように認識しどのような関わりを持ってきたのかを地域毎に明らかにして、「共存」の可能性を検討する必要がある。
コロニー(集団繁殖)性の魚食鳥であるウ類には、淡水域に生息し森林で樹上に営巣する種が複数いる。海洋に生息する種とは異なり、これらの種はその生息場所が人間の生活空間と重なるいわば「身近な生物」である。そのため、昔から人々が利用してきた(鵜飼や肥料としての排泄物採取など)一方で、内水面漁業に対する食害、コロニーのある森林での植生衰退や生態系への影響などの問題も生じてきた。日本では、カワウ(Phalacrocorax carbo hanedae)がこれに該当し、1960-70年代の減少後、1980年代以降の急激な個体数と分布の拡大により、アユに対する食害や森林衰退などが問題となっている。興味深いことに、ヨーロッパに生息する別亜種のカワウ(P. c. sinensis)や北米のミミヒメウ(P. auritus)でも、同時期に個体数の減少と回復、分布の拡大がみられ、同様の問題が起きている。多くの場所では、ウ類の生息を制限することで軋轢を解消しようとするが、中には広い意味での「共存」が実現している場所もある。そこで本発表では、国内外のウ類の増加への対応例を比較検討し、在来種であるウ類との広義の「共存」が可能となる地域の条件を探ってみた。