| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-226 (Poster presentation)
福島第一原子力発電所事故後の野生動物におけるセシウム137(以下「137Cs」)濃度のモニタリング結果から、イノシシは筋肉中の137Cs濃度が高く、個体間のバラツキも大きい傾向が認められている。また、季節的な変動があることも明らかになっている。生物の内部被曝の主要因として、放射性核種に汚染された食物の摂取が挙げられる。本研究では、環境中から野生動物へ高い137Csの移行が起きる要因や季節的な変動のメカニズムを究明するため、イノシシの食性と筋肉中137Cs濃度の関係について調査した。2016年及び2017年に福島県内で捕獲されたイノシシ121個体について、それぞれの筋肉中の137Cs濃度の測定と胃内容物のDNAメタバーコーディングに基づく食性解析を行った。DNA解析は、植物種を同定するため、核DNAのITS-2領域を解析対象とし、次世代シークエンサーMiSeqにて解析した。その結果、49科110種の植物が検出され、食性の季節的な変化も認められた。多変量解析と回帰分析により、筋肉中の137Cs濃度の季節変動と食性の関係について調査した結果、8月から11月に捕獲されたイノシシにおいて、胃内容物中のブナ科の割合(i.e.,ブナ科のDNA配列の検出割合)が高いほど、筋肉中の137Cs濃度が高くなる傾向が認められた。また、イノシシが捕獲された周辺の地域で採集したイノシシの食物サンプルについて137Cs濃度を測定した結果、サクラやミズキなどの液果類では1~17 Bq/kg(生重量)であったが、クリやミズナラといったブナ科の堅果類では33~442 Bq/kg(生重量)の濃度が検出された。ブナ科の堅果類の摂食が、夏から秋にかけて、筋肉中の137Cs濃度を上昇させる要因であることが示唆された。