| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-230 (Poster presentation)
汽水域は歴史的に人間活動が盛んなハビタットであり、古くからその影響が及んでいた。例えば、治水目的の瀬替え(流路変更)や食料増産のための新田開発は、大規模なハビタットの改変や消失を伴うことがあった。しかし、こうした歴史時代における人間活動の影響は、少なくとも生態学の分野では評価されることがきわめて少なかった。一方で、地震学の分野では、近代的な観測機器がなかった歴史時代の地震も「歴史地震」として研究対象とされ、歴史記録からの情報抽出と現代の研究手法を併用して研究が進められてきた。生態学でも同じように、歴史時代の生態学的現象を「歴史生態学研究」として評価できないだろうか?本発表では、生態学的知見を歴史記録で補完することで、汽水湖である水月湖の環境復元を試みた結果を紹介する。
水月湖は福井県南西部に位置し、三方五湖のほぼ中央部にある最大水深34mの汽水湖である。過去2000年間を対象とした古環境の研究から、本湖は西暦1000~1600年代の期間に淡水化したものの、流出河川の開削で1700年代に再び汽水化したことが示されている。しかし、宮地伝三郎らによる1928~1930年間の調査結果は、この古環境の研究結果と矛盾し、水月湖の水深15m以浅はほぼ淡水に近い環境であること、採集されたベントスもユスリカ類幼虫やカワニナ類を主体とする淡水性生物であることが示された。そして、水月湖のベントス群集がヤマトシジミや多毛類を主体とする汽水性のものであることが報告されたのは、比較的、近年のことである。では、水月湖の水質とベントス群集が大きく変化したタイミングはいつなのか、そして、そのきっかけを生み出した要因は何なのか?本発表では、生態学的知見を歴史記録で補完することでこれらの問いに答えるとともに、生態学で歴史記録を活用するメリットを考察したい。