| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-235 (Poster presentation)
ダム下流では細粒土砂の抜け出しによる粗粒化でアユの採餌に有利な面がある一方、低撹乱化に伴う糸状藻類の異常繁茂によるアユの餌質の低下も生じうる。矢作川では、ダム下流での低撹乱化によると考えられるコケ植物の繁茂が報告され、付着藻類を餌とするアユの採餌場所としての質を低下させることが懸念されている。その解決のために、矢作川の阿摺ダム下流では、新しい石礫を人為的に投入し、アユの漁場を改善する試みが実施された。本研究では、石礫の露出高(砂面から石礫の頂点までの高さ)とコケ植物の被度に着目し、アユの摂食痕の有無との関連を調査した。
その結果、従来報告されているように、露出高が大きい石礫ほどアユに利用される傾向があったものの、露出高が大きすぎる石礫では利用されない場合が見られた。一方、コケ植物については、一貫して被度の低い石礫ほどアユに利用される傾向が見られた。露出高が大きな石礫ではコケ植物の被度が大きい場合があり、それがアユによる利用に影響していると考えられた。
新しく石礫を投入した区では総じてコケ植物の被度が低く、アユの摂食痕が多く確認された。石礫を投入した区の周辺でもアユの摂食痕は確認されたものの、コケ植物の被度の高い石礫では摂食痕がない場合もあった。このように、コケ植物の被度の高さがアユによる採餌場所利用の低さの一因と考えられた。したがって、石礫投入区がアユの採餌場所を改善できたのは、コケ植物の被度の低い河床を提供できたためと考えられる。ダムからの土砂供給は攪乱作用を代替することが知られており、コケ植物の剥離を通じたアユ餌場の改善が期待される。