| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-238 (Poster presentation)
高密度化したシカによる被害が深刻化する中、平成25年に環境省や農林水産省によって「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」が掲げられ、捕獲による個体数削減の取り組みが強化されてきた。その結果、知床や富士山国有林など、個体数削減に成功しつつある事例が報告され始めている。一方で、局所的な捕獲強化は個体数の削減以外に周辺部のシカの分布や行動に副次的影響を及ぼしうるにもかかわらず、時空間的にどのように影響が波及するのかはほとんど明らかになっていない。大阪府北摂地域に位置する箕面国有林は過去40年以上シカの捕獲が全く行われていなかったが、2014年度以降急激に捕獲が強化された地域である。そこで、箕面国有林とその周辺地域における捕獲開始時の2014年と捕獲強化後の2018年のシカ生息密度と空間分布を比較し、局所的な捕獲強化がシカの生息密度分布をどのように変化させたかを評価した。
大阪府北摂地域に設置した104ヶ所の調査地で2014年と2018年のシカ生息密度(頭/km2)を算出し、IDW法による空間補間によって100mメッシュごとのシカ生息密度を推定した。その後、箕面国有林内、国有林から1km圏内、1-2km圏内、2-3km圏内の森林域のシカ生息密度の平均値を算出した。また、農地周辺へのシカの移動の有無を検証するため、森林域を農地から500m圏内の農地周辺とそれ以外に分けた算出を行った。
解析の結果、箕面国有林内と1km圏内のシカ生息密度の平均値は、それぞれ26.8から12.2、23.4から14.6と大きく減少していた。一方で、1-2km圏内と2-3km圏内では、それぞれ14.3から16.8、12.7から16.5と増加する傾向が認められた。特にこの傾向は農地周辺で顕著であり、農地周辺では約5~7頭/km2の増加がみられるのに対し、農地周辺以外の森林域では大きな増減はみられなかった。以上のことから、捕獲の強化は捕獲地域とその周辺1km程度の範囲のシカ個体数を減少させうるものの、より遠方の農地周辺部への移動を促す可能性が示唆された。