| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-248 (Poster presentation)
イントロ:東南アジア熱帯雨林は高い樹木の種多様性を持つことが知られている。多種共存が維持されている要因の一つに、近縁種間でもニッチに違いあることが挙げられる。しかし、同所的に共存している種のニッチが、進化の過程でどうやって形成されたのかはほとんど調べられていない。そこで、本研究ではボルネオ島ランビルヒルズ国立公園の熱帯雨林に生育している樹木を対象に、種分化速度とニッチ多様化速度を推定し、種分化とニッチ多様化がいつ・どの系統で起きたのかを調べた。
方法:ランビルヒルズ国立公園に生育する樹木のうち627種について葉緑体DNAの3領域(rbcL、matK、trnH-psbA)を用いて系統樹を作成した。毎木データから定量した3つのニッチ(生活形ニッチ、動態ニッチ、ハビタットニッチ)を用いて、系統樹の各枝の種分化速度とニッチ多様化速度をBAMMソフトウェア(Bayesian analysis of macroevolutionary mixtures)で推定した。
結果:平均種分化速度は約2000万年前から増加しはじめ、約500万年前以降さらに急速に増加していた。ニッチ多様化速度でも同様の傾向が見られた。種分化速度が増加した系統の多くは、フタバガキ科、フトモモ属、カキノキ属など近縁種が多い系統であった。ニッチ多様化速度の増加は種分化速度よりも多様な系統で見られたが、過去2000万年間では、種分化速度とニッチ多様化が同じ系統で増加する傾向があった。
考察:過去2000万年は、世界的な寒冷化と東南アジア地域で海面変動による陸地の変化が起きていた時代である。種分化やニッチ多様化はこうした地史イベントと関係しているのかもしれない。共存近縁種の多い系統で種多様化とニッチ多様化が同時に速くなっていたことから、変動環境下で比較的短い期間に急速にニッチを多様化できた系統で、ニッチの異なる多数の近縁種が生まれたことが示唆される。