| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-252 (Poster presentation)
本州中部山岳の高山帯は、周北極性生物の世界的な分布南端域にあたり、気候変動に対して脆弱な生態系の一つとされる。この本州中部山岳に生育する高山植物についての地域的な気候変動適応策検討に向けて、その種多様性の地理的分布パターンについて検討した。
検討対象地域は、本州中部山岳域の主要な10山系(飛騨山脈、御嶽山、木曽山脈、赤石山脈、八ヶ岳、関東山地、上信越国境、戸隠、志賀・苗場、富士山)を含む範囲とした。高山植物は、原則として、清水(1982・1983)、清水・門田(2014)でリストアップされた維管束植物に、近年新種記載された種群を追加したものとした。各種類の分類学的位置づけについては、グリーンリスト(Ito, M. et al. 2016およびEbihara, A. et al. 2016)により見直しを行った。高山植物の分布情報として、高山帯で実施した植生調査資料に、「長野県植物誌」データベースに収録された標本及び文献・視認記録、長野県環境保全研究所の標本記録、サイエンスミュージアムネット(S-Net)の標本記録、環境省による植生調査資料を加えた計70,522件を、5倍地域メッシュ(一辺約5km)に集約して用いた。種多様性の指標には、各メッシュの出現種数、出現種の出現メッシュ数の逆数の和である希少性指数を用いた。
その結果、対象地域では、日本全体で高山植物としてリストアップされる513種のうち、73%にあたる377種が確認された。150種以上が出現したメッシュが16個、200種以上が出現したメッシュが5個あった。山系別の出現種数では、飛騨山脈が322種と最も多く、次いで赤石山脈、八ヶ岳となった。高山植物種多様性のホットスポットは、飛騨山脈の白馬岳、南八ヶ岳、赤石山脈の塩見岳、赤石岳、北岳などであった。また、出現種数と希少性指標には有意な正の相関が認められ、本州中部山岳の高山植物種多様性ホットスポットは、希少種(低頻度出現種:山域固有種・隔離分布等を示す種)の集中的な分布により形成されていることが示唆された。