| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-253 (Poster presentation)
花の形は送粉者との相互作用を通じて進化したと考えられているため、地理的に送粉者相が異なると、送粉者からの異なる選択圧を受け、同種の植物内でも花形質に変異が生じると予想される。山岳地域では急な標高変化に伴い、送粉を行う昆虫の分布状況も変化する。本研究では、低標高から高標高にかけて広く分布するウツボグサPrunella vulgarisに着目し、送粉者相の違いが花サイズの場所間変異に寄与するか否かを3つの山域(乗鞍、美ヶ原、御岳)の13地点で検証した。
ウツボグサには、どの地点でも主にマルハナバチ属が訪花し、地点ごとに訪花したマルハナバチ属の種構成は異なっていた。特に、1800m以上の標高では、地点ごとの訪花マルハナバチの構成比の違いが大きく、小型のマルハナバチ種の訪花が多く見られる地点が複数あった。
ウツボグサの花筒長は3つの山域全てで、高い標高で小型化する傾向が見られた一方で、標高の影響を考慮すると、御岳で他の山域より花筒長が長い傾向が見られた。加えて御岳では2000m付近で大きなマルハナバチ種が他の山域と比べて多く訪花した。地点ごとの花筒長に対して、送粉者の口吻長が影響を及ぼしているか否かについて、一般化線形モデル(GLM)を用いて検証した結果、標高および植物の成長具合の影響を考慮した場合でも、花筒長は場所ごとの送粉者の口吻長に強く影響されていることが明らかになった。ウツボグサの花筒長は個体群ごとに送粉者の大きさに対応して変化していることが明らかになった一方で、6座のマイクロサテライトマーカーを用いて行ったストラクチャー解析では、地点ごとに顕著な遺伝的構造は見られなかった。
本研究の結果は、ウツボグサの花サイズの変異が、地点ごとに異なる送粉者サイズの影響を受けて生じていることを強く示している。それにもかかわらず顕著な遺伝的構造が見られなかったことから、このような花形質の変異は集団間の遺伝的分化には関与していないと考えられる。