| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-261 (Poster presentation)
琵琶湖に陸封されたアユには冬季を琵琶湖で過ごしたのち春に河川を遡上し成長する春遡河集団と、春夏を湖内で過ごし秋に産卵のため遡上する秋遡河集団が存在する。Iguchi et al. (2002) では、一部の河川において遡河時期の異なる集団間に緩やかな遺伝的隔離の傾向が見出された。しかし、地理的に広域をカバーするためのサンプル数確保の困難さ、大量の試料の分析に要する膨大なコスト等の課題により、琵琶湖水系全域を対象とした湖産アユの遺伝的集団構造解析はこれまで実施されていない。
そこで本研究では、発表者がこれまでに確立した環境DNA分析に基づくアユ集団内の遺伝的変異(ハプロタイプ)の検出法を用いて、主要な琵琶湖流入河川を対象に春および秋遡河集団の遺伝的集団構造の違いを評価することを目的として調査を行った。環境DNA分析を用いることにより、現場では採水を行うだけで河川内に存在する多数の個体に由来するハプロタイプの多様性を網羅的に検出することが可能となる。春(3月,4月)と秋(9月)に計9河川の河口から約1 kmの地点で採水調査を実施し、各試料に含まれるアユのミトコンドリアDNA、D-loop領域のハプロタイプをハイスループットシーケンサーにより解析した。結果、各季節のハプロタイプ集団間に有意な差異が示されたとともに、季節ごとに特異的なハプロタイプがいくつか見いだされた。さらに、季節ごとにハプロタイプ集団の空間的組成の相違(Bray-Curtis β-diversity)と河川間の距離との相関関係を調べた結果、河川間の距離が7.4 km(春)および13.2 km(秋)以内において、有意な相関関係が示された。以上の結果より、琵琶湖全域としてみると遡河時期の異なるアユ集団間および集団内に遺伝的集団構造の違いがあるのではないかと考えられた。