| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-269 (Poster presentation)
捕食寄生性の昆虫,特に寄生バエは幼虫期に様々な昆虫分類群を宿主として利用する.しかし,寄生率の低さと幼虫形態に基づく種同定の難しさから,寄生バエ種と宿主昆虫種の対応関係に関する知見は十分ではない.甲虫オサムシ(オサムシ科オサムシ属)は林床や草地に多数生息する徘徊性捕食者であり,本州ではヤドリバエ科Zaira cinereaによる寄生が確認されている.一方,北海道のオサムシ群集は本州と種構成が異なっており,その寄生者は明らかにされていない.そこで北海道51地点からオサムシ14種3777個体を採集・解剖し,そのうち6種78個体から得られた寄生者の卵104個と幼虫241個体においてCOI遺伝子675 bpのシーケンスに基づくDNAバーコーディングを行い,オサムシの寄生者の種同定および上位分類群の特定を試みた.その結果, 2種の寄生バエ(Zaira cinereaとハナバエ科もしくはヤドリバエ科の不明種)と1種の寄生バチ(シリボソクロバチ科)がいずれも2種以上のオサムシを宿主として利用していることが明らかとなった.寄生頻度が最も高かったZaira cinereaは全ての種を利用しており,オサムシに対する宿主特異性は見られなかった.ただし,体長20 mm以下の小型種への寄生は確認されなかったことから,小型のオサムシは寄生バエ幼虫が体内に侵入するとすぐに死亡する,あるいは寄生バエ成虫は小型のオサムシに産卵しないと予想される.興味深いことに,寄生バエの寄生率は高山植物が優占する高山帯や蛇紋岩地帯で高かった.ヤドリバエ科もハナバエ科も訪花性昆虫であり,成虫は花粉や花蜜を餌としているため,花資源の多い環境はオサムシの寄生バエの生息に適していると考えられる.本研究により,捕食者であるオサムシが送粉者である寄生バエの宿主となることで高山環境において食物連鎖と送粉系が連結した生態系が存在することが示唆された.