| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-272 (Poster presentation)
沿岸性魚類の種内系統の分布形成には、地史的要因や物理的要因に加え、生息環境や分布特性などの生態的要因が大きく影響している。日本周辺海域では、沿岸性魚類の種内系統の分布についての知見が蓄積しつつあるが、分布の種間差や生態的特性との関係についてはよく分かっていない。
本研究では、日本周辺海域における沿岸性魚類の種内系統の分布、およびその形成に生態的特性が及ぼす影響を明らかにすることを目的とし、生息環境(生息水深・基質)や分布特性(種の分布が低緯度寄りか高緯度寄りか)の異なる沿岸性魚類16種(ハゼ科14種・他科2種)を西日本周辺海域で採集し、ミトコンドリアDNAの部分領域を用いて、種間で遺伝的集団構造を比較した。
その結果、内湾のやや深い砂泥底に生息する種では、地理的な集団構造がほとんど認められなかったのに対し、浅場(干潟や磯)の種では、地理的な集団構造が明瞭である傾向があった。浅場の種の集団構造は、いずれの種においても、日本海側と太平洋側で異なる系統が分布している点で一致していたものの、日本海内部での系統分布や、瀬戸内海および東シナ海の個体の系統属性は、生息基質や分布特性によって種間で大きく異なっていた。たとえば、干潟に生息する多くの種では、日本海側で複数の系統が認められたのに対し、磯の種では認められなかった。また、磯の種では、瀬戸内海の個体が太平洋系統に属していたのに対し、干潟種のうち高緯度寄りの種では、東シナ海~太平洋沿岸南部と同じ系統に属し、干潟種のうち低緯度寄りの種では、日本海~東シナ海系統もしくは日本海・太平洋系統の両系統に属する傾向が認められた。
これらのことから、種内系統の分布形成には、生息環境や分布特性が密接に関係しており、特に生息水深は集団構造の形成・維持のされやすさに影響し、生息基質や種の分布特性は最終氷期や以降の分布変遷に影響してきたと考えられる。