| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-279 (Poster presentation)
寄生生物は生物多様性のかなりの部分を占めると考えられている。多くの自由生活性の生物で絶滅が危惧される現在、それらを宿主とする寄生生物もまた絶滅の危機にあると予想される。しかし、寄生生物では専門家不足や分類体系の混乱などにより、「過去と比べてどのくらい減少しているのか」を判断するための分布や生息量に関する過去データが存在しない場合も多い。本研究では、琵琶湖の淡水魚類に寄生するウオノエ科等脚類をモデルとし、博物館に収蔵されている魚類の既存標本を調査することで、過去から現在までの生息量の変化を推察できるか検証した。まず、宿主特異性を明らかにするために、既知宿主種のほとんどが含まれるコイ科を中心に37魚種、3,000個体以上の寄生の有無を調査した。その結果、寄生が確認された数魚種について、寄生率の時系列変化を見ると過去においては概ね数%あった寄生率がどの宿主種においても1960年代後半に0%となり、その後は寄生が確認されなかった。この結果は、琵琶湖沿岸域の開発や環境悪化、それに伴う魚類生息量の減少が生じはじめた時期と合致しており、琵琶湖のウオノエ科等脚類が人知れず絶滅した可能性を示唆している。本研究の結果は、寄生生物研究における宿主の自然史標本の有用性を示唆するものであり、また同時に、自然史標本が単にその種の標本としてだけではなく、寄生生物という生物多様性情報を内包するものとしての潜在的価値を持つことを示すものである。