| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-280 (Poster presentation)
有明海湾奥部(狭義の有明海)に流入する感潮河川においてカニ類の流程分布を調査した.これまでの有明海の底生動物調査は海域が中心であったのに対し,今回は河川に沿って内陸に向けた調査である.これらの河川は日本最大の干満差を示すとともに干拓で延長されているため感潮域が長く,また海水と淡水が鉛直循環により混合する「強混合型」であるため下流に高塩分域,上流に低塩分域が分かれる傾向がある.大陸と繋がっていた時からの遺存種も多数分布している.河川産のカニ類のほとんどは海域で幼生期をおくるため海とのつながりが必要だが,潮止めの堰は移動をさえぎり分布域を制限する.そのため潮止めの堰に注目しながらカニの分布を確認した.
2018年5月〜11月の日中の干潮時,有明海の湾奥部に流入する1級および2級河川の感潮域上限(潮止めの堰)周辺から河口付近にかけて調査地点を選び,潮間帯周辺で目視確認および採集により出現種を記録した.38回の調査により,熊本県玉名市菊池川と長崎県雲仙市栗谷川を結ぶ線より北に位置する85河川,465定点(うちカニ確認396)を調査し,他地域では稀な絶滅危惧種も含む25種を確認した.流程分布様式から,感潮域下流部に分布が偏る高塩分性の種(シオマネキ,アリアケガニ等)と上流にかけて広く分布する汽水性の種(広塩分性,ハラグクレチゴガニ,クロベンケイガニ他)の,2つのグループに大きく分けることができた.また近縁種のハラグクレチゴガニとチゴガニ,ケフサイソガニとタカノケフサイソガニの分布の違いを新たに確認した.完全に締め切られている諫早湾の本明川を除けば,湾奥の多くの河川は潮止めの堰がかなり上流にあり,感潮域がかなり内陸に達している.そのためカニの分布も広域にわたっており,海域へとくだるゾエア幼生も含め有明海の生態系における重要な地位を占めていると考えられる.