| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-290  (Poster presentation)

阿寒カルデラにおける火山噴火によって同時に細分された湖沼群の生態遷移系列 【B】
Series of ecological succession in lakes concurrently subdivided by volcanic eruption at the Akan Caldera 【B】

*若菜勇(釧路IWC), 田村由紀(環境コンサル(株)), 山田浩之(北海道大学), 尾山洋一(釧路市教委), 大原雅(北海道大学)
*Isamu Wakana(Kushiro Int. Wetland Center), Yuki Tamura(Kankyo Consultant Co., Ltd.), Hiroyuki Yamada(Hokkaido Univ.), Yoichi Oyama(Kushiro City Board of Edu.), Masashi Ohara(Hokkaido Univ.)

  陸水学の父と言われるForelは,1901年に上梓した“Handbuch der Seenkunde”において,「湖沼の遷移には膨大な時間を要するため,その過程を実際に見ることはできない」と指摘した。以来,彼の見方は半ば通説となると同時に,湖沼生態学が乗り越えるべき大きな課題となってきた。本研究では,この問題に対するアプローチの一つとして,同時期に形成された近接する複数の湖沼が湖盆の容積と集水域面積の比の違いによって富栄養化の速度に違いを生じ,一定の時間を経た後,異なる栄養段階に達することを定量的に示し得るか検討した。
  調査対象とした阿寒カルデラ内の10湖沼は,数千年前,カルデラの基底部から噴出した雄阿寒岳の溶岩によってカルデラ内部が分断・堰き止められて生成し,阿寒湖を除き自然環境が良好に保存されている。調査では,測深によって湖沼図を作成したのち,他の地理・地形情報と合わせて湖盆諸元を解析した。また,湖内の数カ所で湖水を採取して水質を分析するとともに,湖岸全域で大型水生植物を採取した。
  富栄養化速度の指標となる湖水の全リン濃度は積算集水域面積/湖容積比(AWA/LV)と有意な相関を示し,過去に人為的な栄養負荷を受けた阿寒湖だけが外れ値となったものの,AWA/LVが大きくなるのにつれて湖沼型は貧栄養から中栄養,富栄養へと変化した。水生植物は21種確認され,湖沼ごとの出現種数は腐植栄養湖を除いて湖の大きさを指標する平均水深などと強い正の相関を示したのに対して,全リン・全窒素濃度が上昇すると種数が減少する傾向が認められた。種構成は,貧栄養型,中栄養型,貧中栄養型,広汎型,腐植栄養型の5タイプに類型化され,これらの組み合わせによって水生植物相が構成されていた。以上の結果から,湖沼型と水生植物相のバリエーションは富栄養化速度の違いに依拠した生態遷移系列と見なされる。


日本生態学会