| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-295  (Poster presentation)

ギャップへのシカ柵設置1~4年後の春日山原始林の実生稚樹群集の反応
Early response of the seedling and sapling community after 1-4 years to enclosure of canopy gaps in Kasugayama Forest Reserve

宮内香澄(第一学習社), *松井淳(奈良教育大学)
Kasumi MIYACHI(Daiichi Gakushusha Co.), *Kiyoshi MATSUI(Nara Univ. of Educ.)

 春日山原始林保全のため、奈良県は2013~16年度に主に林冠ギャップ下にシカ柵を設置した。このうち28基で実生の発生を調べた。シカ柵内に2個、柵外に1個4m×4mの方形区を置き樹高2m以下の木本実生の種名と高さを記録した。また目視により方形区直上の開空度LIを10段階で評価した。
 総計27科45種2339個体の実生稚樹が確認された。内訳は28個の柵外OD区と、LIがこれと同程度(LI=1-3)の28柵内ID区、これより明るい28IL区にそれぞれ103、478、1758で、方形区あたり個体数は3.7、17.1、62.8であった(Kruscal-Wallis test, p<0.001)。出現種数は順に16種、25種、44種であった。カシ類、モミ、スギなどの林冠構成種は5種、9種、12種の順で、ムクロジは柵内のみに出現、コジイは柵外でも見られた。イヌガシ、シロバイ、シキミなどの不嗜好種は柵外で8種、柵内で10種と大差なかった。OD区では不嗜好植物の個体数割合はおよそ6割だった。カラスザンショウやアカメガシワなどのパイオニア種はIL区に集中して見られた。
 本調査はシカ柵設置から1~4年しか経過しておらず、密度の低い待機実生群集に柵内で新規実生が多量に加入したため、平均樹高はIDで9.8cmとODの15.0cmより低かった(Welchのt-test, p<0.01)が、定着する実生密度は増えている。シカ柵内の実生群集だけに注目して、LIが1-2(L)、3-7(M)、8-10(H)の3群に分け、区画内の実生稚樹の最大高を比較した。平均は27.8cm、73.9cm、69.4cmでL-M間、L-H間に差が認められた(TukeyHSD, p<0.01)。
 以上より春日山原始林では林冠ギャップ下を囲えば、まだ多様な実生稚樹群集が確保できることが示唆された。


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