| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-307 (Poster presentation)
サトイモ科の花は花軸上に密集して肉穂花序をなし、花軸の上部に稔性のある花がつかない場合はその部分を付属体という。付属体と仏炎苞(ミズバショウなら花序を囲む白い部分)はサトイモ科特有の器官である。サトイモ科の派生的な属では、付属体や仏炎苞、雌花、雄花などの各部が、匂いの放出、発熱、遮光、仏炎苞の開閉による空間の創出や遮断などを協調的に分業する。このようにして、雌性先熟のサトイモ科植物が、適切なタイミングで適切な場所に送粉昆虫を誘導制御する様は見事である。特定のサトイモ科植物はタロイモショウジョウバエ属のハエと緊密な送粉共生を進化させており、本研究ではクワズイモの花香と浸出液の生化学分析を行い、送粉者であるクワズイモショウジョウバエとニセクワズイモショウジョウバエの訪花・送粉行動との対応を考察した。
4つの開花段階(開花初期、雌期、雄期、萎れかけ)の4つの部位(付属体、雄花序、仏炎苞上部、仏炎苞下部)からそれぞれ揮発性有機化合物を採集し、GC-MSで分析した結果を非計量多次元尺度構成法(NMDS)で解析したところ、花香成分は1)開花初期は仏炎苞上部の組成、2)雌期は付属体及び仏炎苞上部の組成、3)雄期は雄花序の組成でそれぞれ代表されると考えられた。また、クワズイモでは雄花序と雌花序の中間に不稔中性花が並ぶ中性花序が存在する。雌花序に隣接する中性花から浸出液が分泌されることを発見し、その成分を分析したところ、HPLCによって果糖やブドウ糖、ショ糖などが、二次元薄層クロマトグラフィーによって各種アミノ酸に対応するスポットが、それぞれ検出され、この浸出液は典型的な花蜜であると考えられた。
これらの結果は、仏炎苞上部の匂いが送粉者を遠距離から誘引し花に着地させた後、付属体の匂いによって仏炎苞内部へ、さらに花蜜によって雌花序へと誘導した後に、花粉放出時には雄花序へと匂いで導いていることを示唆する。