| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-308 (Poster presentation)
多くの熱帯林において、人為的攪乱により本来の種子散布ネットワークが崩壊しつつある。本研究では、タイのカオヤイ国立公園において、大型種子を持つ樹種(アグライアAglaia spectabilisとカナリウムCanarium euphyllum)の種子散布者としてのサイチョウ類4種(オオサイチョウ、シワコブサイチョウ、ビルマサイチョウ、キタカササギサイチョウ)の有効性について、既存データを組み合わせて検討した。特に人為的攪乱の影響を受けにくいキタカササギサイチョウが大型種の種子散布者としての生態系機能を代替できるのかに注目した。量的な有効性は、結実期2シーズンの訪問頻度と訪問あたりの持ち去り種子数を指標とした。質的な有効性は、吐き戻された種子の発芽率と種子散布距離を指標とした。種子散布距離の推定には、発信器を用いた個体追跡データと飼育個体への果実の給餌実験から得られた種子の体内滞留時間のデータを用いた。サイチョウ類4種のアグライアへの訪問頻度は58.7%(うちキタカササギサイチョウは28.7%)、種子の持ち去り率は41.6%(同9.9%)、カナリウムへの訪問頻度は19.5%(同3.9%)、種子の持ち去り率は44.7%(同8.8%)だった。サイチョウ類4種が吐き戻したアグライアとカナリウムの種子はいずれも高い発芽率を示し(アグライア85%、カナリウム100%)、サイチョウ類で種間差は見られなかった。オオサイチョウやシワコブサイチョウなどの大型種の種子散布距離は19-23%が1kmを超え、最大7-8kmだった。一方、小型種のキタカササギサイチョウの種子散布距離は1kmを超えたのは10%未満で、最大種子散布距離も2km未満だった。人為的攪乱の影響を受けやすい大型種やビルマサイチョウが絶滅することで、両樹種の種子の持ち去り率が10%以下に減少し、種子散布距離も大幅に減少すると予測された。両樹種の結実木周辺に落下した種子は激しい種子食害を被ることから、小型種のみでは大型種の種子散布を代替するのは難しいと考えられた。