| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-309 (Poster presentation)
高山帯は地球温暖化による気温上昇の影響を受けやすい脆弱な生態系の一つである。例えば、平均気温が2℃上昇することは、等温線の約300m高標高への移動を意味している。そのため、高山植物の気温上昇に対するレジリエンスは、生育に適した気温の標高帯への分散、すなわち種子が高標高へ運ばれるかどうかに左右される可能性もある。本研究では、高山植物であるガンコウランの種子が、ツキノワグマと鳥類によって高標高へ散布されているかどうかを、種子の酸素安定同位体比を分析することによって推定することを目的とした。
調査は浅間山(軽井沢町長倉山国有林)で行った。森林限界周辺の標高1670m~2370mの標高差700mの間に幅100mのプロットを設置し、月に2回、クマの糞を採集した。また、プロット内の標高差700mを100m間隔に区切った9地点に、とまり木付きの種子トラップを2個ずつ設置し、月に2回、鳥類の排泄物中の種子を回収した。調査期間は2017年7月~11月の5か月間とした。また、標高1348m~2278mの標高差930mを50m間隔に区切った22地点でガンコウランの種子を結実木から直接採取し、種子中の酸素安定同位体比を分析することで、糞中の種子の酸素安定同位体比からその親個体の標高を推定するための検量線(標高と種子の酸素安定同位体比の関係)を求めた。
ガンコウラン種子を含んだクマの糞は標高1663m~1836m間で13個、鳥類の糞は標高1720m~1870m間で9個採集された。そこからランダムにクマ糞由来の種子を23個、鳥類由来の種子を13個選び出し、酸素安定同位体比を分析した。その値を検量線(決定係数0.48)に当てはめて、その親個体の標高を推定し、垂直方向の散布距離を算出した。その結果、散布距離は鳥類よりクマで長く、クマの場合は高標高に偏って散布されている傾向が認められた。