| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-313 (Poster presentation)
相利共生系は生物種が互いに利益を与える種間相互作用である。自然界では相利共生系が古くから多様に存在しているが、その一方で共生者の中から共生的でない種の進化は頻繁に起きている。そのような進化がどのような生態的背景で生じるのかを明らかにすることは、相利共生系の持続性や多様性を理解する上で必要不可欠である。
植物と種子食性の送粉者が互いに強く依存し合う絶対送粉共生系のひとつに、コミカンソウ科植物とハナホソガ属ガ類(以下、ハナホソガ)の関係がある。ハナホソガの雌成虫は、宿主植物の雌花に能動的に授粉した後、その子房内部に産卵する。孵化したハナホソガ幼虫は果実内に複数ある種子のうち数個のみ摂食して成熟するので、ハナホソガ幼虫の食害を免れた種子により、植物も子孫を残すことができる。
コミカンソウ科植物には和歌山から沖縄本島にかけて広く分布するカンコノキと、八重山諸島以南に分布する姉妹種ヒラミカンコノキがある。この2種の植物は送粉者としてハナホソガ2種を共有する。ハナホソガ2種は系統的に離れており、大半の地域で排他的な分布をしている。特に琉球列島では近接した島間でハナホソガ種が異なることも少なくない。一方の種のハナホソガ(以下、正常種)がカンコノキの雌花に授粉・産卵すると、種子全てが成熟したことで果実が均一に膨らむが、他方の種(以下、いびつ種)が授粉・産卵すると、子房の一部が虫こぶ化して、いびつに膨らむ。送粉能力と種子生産貢献度に着目して調べたところ、正常種と比べて、いびつ種がより寄生的に振舞っていた。一般的に、虫こぶ形成性は寄生蜂からの回避が一因と言われている。本研究では、ハナホソガの寄生蜂であるコマユバチ科のハチ(コマユバチ)に着目し、ハナホソガ2種に対するコマユバチの影響や寄生率の比較から、いびつ種の虫こぶ形成性の進化的背景について検証した。