| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-316  (Poster presentation)

草原の送粉者はどこから来るのか? -環境のモザイク性から送粉者相を読み解く-
Where did the grassland pollinators come from? -To explain the composition of pollinators based on the surrounding mosaic landscape-

*辻本翔平, 野田顕, 西廣淳(東邦大学)
*Shohei G TSUJIMOTO, Akira Noda, Jun Nishihiro(Toho University)

千葉県北部の台地上には、希少な草原性植物が多く生育する草原が存在する。この草原の植物相の多様さに関する調査は多くなされている一方で、その繁殖に必要な送粉者相の調査は行われていない。送粉者には多様な分類群が含まれており、その種類ごとに発生・営巣環境は異なる。この地域の地理的な特色として、台地上には草原が、台地の縁には小規模な谷(湿地)が、その間には斜面林が成立しており、様々な自然環境がモザイク状に混在している。このようなランドスケープにおいて、草原の送粉者相に及ぼす影響を把握することは、草原生態系の維持に関わる要因を理解する上で重要である。
 調査は、2018年6~11月に、千葉県白井市内の4か所の草原内に設けた合計35340m2の調査区で、網羅的に訪花者相の観察を行った。現地で同定できない分類群については捕獲し、研究室で同定を行った。各種類の送粉者が発生・営巣する環境の情報を、文献情報や現地での観察結果から収集し、草地・樹林・湿地に分類した。なお、鱗翅目に関しては食草のリストを作成し、その食草が生育する環境を鱗翅目の発生地とした。
結果は、2272回の訪花を確認し、48%を膜翅目が、31%を鱗翅目が、20%を双翅目が占めていた。各種類の送粉者が由来する周辺環境割合は、どの草原でも樹林、草地、湿地由来の送粉者が確認され、特に草地と樹林の割合が高かった。草地・樹林・湿地のいずれか一つの環境に発生を依存している種類は全体の訪花回数の32%で、その内、草地以外の環境由来は57%を占めた。その種類数は、全部で111種類確認された送粉者のうちの19%を占めていた。
 以上の結果は、草原で活動する送粉者は周辺の自然環境からも多く由来しており、周辺環境の多様さ、とりわけ樹林を保全することが草原の送粉共生系を維持する上で重要であるといえるだろう。


日本生態学会