| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-317 (Poster presentation)
エゾクロクモソウ(Micranthes fusca (Maxim.) S. Akiyama et H. Ohba)は日本の高山の沢沿いに生えるユキノシタ科チシマイワブキ属の多年草である。最近の研究で、エゾクロクモソウやアオキなど、小さな花、黒赤紫色もしくは緑色の花弁、短い花糸などを持つ植物において、キノコバエ類が重要な送粉者であることが報告された(Mochizuki & Kawakita 2017)。
エゾクロクモソウの同属の近縁種で高緯度地方に分布するシベリアイワブキM. nelsoniana (D. Don) Smallも沢沿いに生え、小さい花を多数つける。また、同属の近縁種でカムチャツカ~北千島の固有種であるM. purpurascens Kom.は火山の斜面に生え、黒赤色の小さな花をつける。ある種のキノコバエ類は高緯度地方にも分布することから、これらの植物においてもキノコバエ類が送粉に関与している可能性はないかと考えた。
上記の3種の花序について、昼夜に亘り10秒間隔で訪花昆虫のインターバル撮影を行った。同時に周囲の花序でも訪花昆虫を観察し、訪花頻度の高いものは捕獲・同定を行った。その結果、エゾクロクモソウの訪花昆虫の合計滞在時間77%がキノコバエ類であり、22%がハナアブ科Syrphidaeであった。一方シベリアイワブキの訪花昆虫は、ヒメイエバエ科Fanniidaeの昆虫が滞在時間78%、イエバエ科Muscidaeの昆虫が20%であった。M. purpurascensでは、イエバエ科47%、ガガンボ科Tipulidae 47%であった。エゾクロクモソウ以外の2種では、キノコバエ類の訪花は観察されなかった。
以上の観察の結果、エゾクロクモソウにキノコバエ類が訪花することが確認された。また、他の2種のうち特に黒赤色の花弁を持つM. purpurascensはキノコバエ媒が疑われたが、キノコバエ類の訪花は見られなかった。このことから、キノコバエ媒かどうかは系統の近さとは関係が無いこと、キノコバエ媒のためには生育環境、花色、サイズ以外にも、花の形なども含む総合的な形質の収斂が必要であることが示唆された。