| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-318 (Poster presentation)
サトイモ科テンナンショウ属の花序は葉が変形した仏炎苞に覆われている。テンナンショウ類は通常雌雄異株であり、異性株間の送粉にキノコバエ類などの昆虫類が寄与している。本属の多くの種の仏炎苞は緑色から白条を有する紫色であるが、マムシグサの一部個体は全体に濃紫色を呈し、しばしば仏炎苞の色彩が異なる株が同所的に生息する。♀の仏炎苞のサイズは♂のそれよりも大きい傾向があり、同性内でも変異が大きい。株間の仏炎苞の色彩・サイズの違いによる訪花昆虫相の違いは個々の株やそれらが集合した個体群の繁殖に大きく影響すると考えられる。
大分県日田市内の3箇所のスギ人工林(以下調査地A,B,C)で、2013年から2018年までの間、開花したマムシグサの性別と仏炎苞の色彩・サイズを記録し、4月初旬から5月中旬までの間に仏炎苞内に見られた昆虫を2,3日毎に採集した。これらの調査地のマムシグサの仏炎苞の色彩に二型があり、調査地Aは紫のみ、調査地Bでは緑のみであった。調査地Cでは紫と緑が混在しており、紫の方が優勢であった。6年間3調査地の合計で、仏炎苞が紫の252株(148♂104♀)、緑の65株(39♂26♀)に訪花昆虫が見られ、いずれの調査地でも♀株の仏炎苞の幅は同色の♂株のそれよりも平均値が高かった。これらのマムシグサから1067個体の昆虫を集めた結果、♂株と♀株それぞれで414個体と614個体の双翅目昆虫が採集された。訪花昆虫全個体数ののうち、キノコバエ科、クロバネキノコバエ科、ショウジョウバエ科、カバエ科の個体数が♂株で50-70%、♀株で80-90%を占めた。これらの双翅目群集は仏炎苞の色彩の間で異なり、仏炎苞が紫の♀株では比較的広い分類群が利用されていた。調査地BとCのどちらでも緑の♀株でキノコバエ類が占める割合が高い傾向があった。3調査地いずれでも、テンナンショウ類はその場にいる昆虫を利用しており、仏炎苞が紫の株のほうが広い分類群を集められるだけ、より適応的であると考えられる。