| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-321  (Poster presentation)

マングローブ生態系における底生生物の食物網構造:亜熱帯域と温帯域を比較する 【B】
Food Web Structure of Benthic Animal Community in Mangrove Forest: Comparison between Subtropical and Temparate Area 【B】

川瀬誉博(鹿児島大学), *山本智子(鹿児島大学), 木下そら(鹿児島大学), 大西雄二(海洋研究開発機構), 山中寿朗(東京海洋大学)
Takahiro Kawase(Kagoshima Univ.), *Tomoko YAMAMOTO(Kagoshima Univ.), Sora Kinoshita(Kagoshima Univ.), Yuji Onishi(JAMSTEC), Toshiro Yamanaka(Tokyo Univ. Mar. Sci. & Tech.)

マングローブは熱帯・亜熱帯の河口汽水域に生育する耐塩性の陸上植物であり、鳥類や昆虫類、魚類や底生生物など、陸上と海洋双方の生物とともにマングローブ生態系を築いている。マングローブ植物はこの生態系において、生息場所提供者と生産者という主要な役割を果たしているが、底生生物もまた、食物連鎖を通して生態系を支えている。人為的あるいは自然分布によって温帯域で見られるマングローブ林では、熱帯・亜熱帯とは底生生物相が異なっていることから、マングローブ植物や底生生物の機能が異なっている可能性がある。そこで本研究では、温帯域に属する鹿児島市の喜入マングローブ林の食物網構造について、安定同位対比を用いて明らかにするとともに、亜熱帯域に属する奄美大島の住用マングローブ林と比較を行った。生産者として落葉、海藻、底生微細藻類、落葉上微細藻類、植物プランクトン、底質を、消費者として、植食性や堆積物食の腹足類とスナガニ類など堆積物食の甲殻類、雑食性の甲殻類などを採集した。炭素・窒素・硫黄の安定同位体比を測定した結果、消費者の炭素安定同位体比から、喜入では底生生物は海藻などの海域由来の有機物を利用しており、マングローブに依存していないと考えられた。一方、住用マングローブ林では、底質中の有機物にマングローブなど陸上植物の影響が見られ、マングローブ林の樹冠内に生息する底生生物は、このような有機物を利用していると思われた。樹冠のない林縁部に生息するスナガニ類は、より海洋起源の有機物への依存度が高いと推定された。温帯域に分布するマングローブ林では、マングローブ植物が生産者として機能しておらず、本来の分布地である亜熱帯域とは異なる生態系が成立していることが示唆された。また、喜入では、マングローブ落葉の窒素同位体比が住用よりかなり高く、人為的な起源を持つ有機物の影響を受けている可能性が考えられる。


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