| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-322 (Poster presentation)
東南アジアの低地熱帯雨林では、森林を構成する様々な分類群に属する多くの樹種が、数年に1度の不規則な間隔で繁殖期を同調させる“群集同調マスティング現象”が観測される(以下、この群集レベルで同調した開花・結実期のことを“同調繁殖期”とする)。当地域に優占するフタバガキ科の多くはこの繁殖様式を示し、同調繁殖期にのみ種子を生産する。フタバガキ科の種子は複数の昆虫種によって捕食されることが知られているが、出現する昆虫の種構成や食性幅は、毎回の同調繁殖期で同様で安定的なものなのかは明らかになっていない。そこで、本研究では、マレーシア・サラワク州に位置するランビルヒルズ国立公園で2013年から2014年にかけて発生した同調繁殖期に採集されたフタバガキ科の種子を捕食するゾウムシ科ゾウムシ亜科とミツギリゾウムシ科チビゾウムシ亜科に属する複数のゾウムシ種の食性幅を明らかにし、既にNakagawa et al. (2003)により報告されている、1996年と1998年に同調査地で発生した同調繁殖期に採集されたフタバガキ科種子食性ゾウムシ種の食性幅と比較した。調査の結果、2013年から2014年にかけて発生した同調繁殖期に採集されたフタバガキ科種子食性ゾウムシ30種のうち28種が、フタバガキ科のいずれかの1属の種子のみを捕食していることが示された。これは、1998年の同調繁殖期に採集されたゾウムシ種と同様の結果であったが、採集されたゾウムシ種の大半がフタバガキ科の複数属の種子を捕食していた1996年とは異なる結果である。他地域で報告されているフタバガキ科種子食性ゾウムシの多くは、1998年や2013−14年と同じ傾向が報告されていることからも、これらゾウムシ種の多くは、ほとんどの同調繁殖期では、フタバガキ科のいずれか1属の種子のみ捕食するが、なんらかの条件が揃った場合は、幅広いフタバガキ科種子を捕食することが示唆された。今後、これらのゾウムシ種の潜在的な食性幅の解明が求められる。