| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-329 (Poster presentation)
マダニ類は時に重篤な感染症をもたらすため,これまでにも多くの研究が行われてきたが,その個体数の制限要因については未だに不明な点が多い.そこで,発表者らは,マダニ類の吸血源となる脊椎動物の個体数密度がマダニ類の個体数密度に及ぼす影響 (餌資源量によるボトムアップ) に興味を持ち,近年,シカの高密度化が問題となりつつある鳥取県東部において,その検証を開始した.
マダニ類の吸血源の特定は,普通,対象地域の脊椎動物を捕獲し,そこに付着しているマダニ類を採集することで行われる.しかし,脊椎動物の捕獲は大きな労力を要し,また,多くの場合,害獣駆除などで捕獲される動物種にデータが偏りやすいなどの欠点がある.そこで,本研究では,マダニ類の体内に保持されている吸血源動物の血液DNAから吸血源を特定する方法が有効であると考えた.
これらを踏まえ,本研究では,まず,1)シカが高密度化しつつある鳥取県東部において,森林公園や大学など人間活動が頻繁に行われる林内のマダニ群集の季節変化を明らかにし,次いで,2)各地点における優占種を対象に,哺乳類用のプライマーを用いたPCR・ダイレクトシーケンスにて塩基配列を決定することで吸血源の特定を試みた.
2017年3月から2018年2月まで,鳥取県東部の8地点で毎月1回,旗釣り法にてマダニ類を採集した結果,11種約2万個体のマダニ類が採集された.特にシカの密度が高いと予想される若桜町や八頭町において,マダニ類の個体数密度が高い傾向にあった.
次に,各地点の優占種を対象として,8種153個体からDNAを抽出し,哺乳類の16S rRNA用のプライマーを用いて吸血源の特定を行なった結果,74個体で塩基配列の決定ができた.野生動物としては,シカ,モグラ,ウサギなどが吸血源として特定された一方で,82%がヒトと同定された.