| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-334 (Poster presentation)
海草藻場はヨコエビ類や巻貝のような小型無脊椎動物が数多く生息する場であり,それらを餌(被食者)とする魚類などの捕食者にとっての重要な餌場・生育場としての機能を持つことが知られている.これらの被捕食関係を詳細に把握することは,海草藻場の餌場・生育場としての重要性を評価するために必要である.
これまでの関連する研究では,被食者の種の違いにより捕食圧が異なることや被食者群集の群集構造の変異が起こることについては確認されてきた.しかし,その具体的な要因については詳細にされてこなかった.被食者の逃避能力,潜伏能力,形態形質といった防衛機能に着目することで,なぜ捕食圧に差が生じるのかを明らかにできると考えられる.
本研究では,2018年の夏季に北海道東部の厚岸湾の海草藻場(アマモ場)において,異なる防衛機能を持つ4種の小型無脊椎動物(コウダカチャイロタマキビ,ニッポンモバヨコエビ,ムシャカマキリヨコエビ,マルエラワレカラ)を対象として,捕食圧を評価する紐つなぎ実験を3度行った.実験に用いた4種は,海草藻場において優占しやすい分類(機能)群に属する.透明なアクリル棒の先にフロロカーボン製の糸を固定し,糸の先に少量のゼリー状ボンドで各個体を生きたまま接着した実験装置をそれぞれの種ごとに20基ずつ作製した.アマモ場の中に実験装置を24時間設置し,被捕食数を計数した.
実験の結果,ニッポンモバヨコエビに対する捕食圧が約79%と最も高く,コウダカチャイロタマキビが約5%と最も低かった.ムシャカマキリヨコエビおよびマルエラワレカラに対する捕食圧は共に50%程度であった.
本研究により,海草藻場において優占しやすい被食者間で,防衛機能の違いにより捕食圧が異なることが明らかになった.このことは,被食者の群集の構造が変わると餌場・生育場としての機能や価値が変わることを示している.