| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-341 (Poster presentation)
洪水は河川の普遍的現象であり、河川生物は洪水攪乱に適応した何らかの生態的特性をもつと考えられる。しかし、洪水時の現地調査は安全上の困難を伴い、洪水攪乱に対応した水生生物の退避行動を詳細に把握した研究は少ない。一方、気候変動などによる流況の変化、護岸整備による退避地の劣化は近年顕在化しており、洪水時の水生生物の退避地を把握・維持することは河川生態系保全の重要課題となりつつある。
本研究では、流量変動が小さく洪水時でも調査できる機会が得やすい湧水支川を対象に、降雨前後の魚類相の経時変化を調査した。調査地は北海道黒松内町の低地帯を流れる朱太川水系の湧水支川であり、電気ショッカーによる魚類採捕を2018年10月6~7日に生じた降雨(48.5mm)の前1回、後3回行った。
ヤマメ・サケ・エゾイワナ・スナヤツメ・ウグイ・フクドジョウ・ウツセミカジカが採捕され、個体数の経時変化は上に凸とそれ以外のパターンに大別できた。前者はヤマメ・サケ・スナヤツメ・ウグイ、後者はエゾイワナ・フクドジョウ・ウツセミカジカが該当した。繁殖期に当たるサケの個体数の経時変化は、退避よりむしろ洪水に誘発された産卵遡上によるものと推察された。一方、ヤマメは多くが未成熟個体であったため、退避行動を主な要因とする経時変化を示したと考えられた。砂泥に富む湧水支川を選好するスナヤツメは、元々いた個体が降雨時に岸際に移動し、採捕効率が向上することで上に凸の経時変化を示したと推察された。また、個体数が少なく明瞭なピークを欠く他の魚種は、退避地を湧水支川外にもつ可能性が示唆された。例えばエゾイワナは山地渓流、ウグイ・フクドジョウ・ウツセミカジカは礫河床を選好するため、低地帯の湧水支川は退避地として利用しにくい。以上より、湧水支川の選好性には種間差があり、少なくともヤマメ・スナヤツメでは退避地として湧水支川が有用であると考えられた。