| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-345 (Poster presentation)
福島県いわき市にある鮫川河口において、東日本大震災後における大型底生動物の生息状況調査を、2014年8月と2015年8月に実施した。調査は、ラグーン部と河口干潟部の計4地点において、定量採集と定性調査を組み合わせて行った。出現した希少種をリストアップするとともに、得られたデータを房総半島~仙台湾の11干潟(夷隅川、一宮川、茂宮川、松川浦、鳥の海、広浦、井土浦、蒲生、櫃ヶ浦、波津々浦、万石浦)での調査結果と比較した。
大型底生動物の多様性は、鮫川がもっとも高く(全140種[taxa]、希少種31、鮫川のみに出現した種51)、その群集は、多くの海産種(ホシムシ類、ユムシ類、タケフシゴカイ科、サクラガイやオオモモノハナを含む多くの潮下帯性二枚貝)や、分布北限に近い汽水性種(イシマキガイ、カクベンケイ、ハマガニなど)で特徴付けられた。この要因の1つはラグーン部に隣接した発電所からの海水流入であり、もう1つの要因として、ラグーン地形、砂浜海岸、河口部、泥干潟、砂干潟、塩分勾配、アマモ場、塩性湿地、護岸といった生息環境(生息場)の多様性が挙げられた。
2016年以降、鮫川では防潮堤の拡幅工事が行われ、干潟やヨシ原の埋め立てとラグーン部の低塩分化が進行した。その結果、ラグーン部では海産種がいなくなり、少数の汽水性種が優占する群集へ変化した。震災前にラグーン部で5000個体 m-2にも達していたホソウミニナ個体群は、震災時の減少から回復しつつあったが、2016年には1個体も確認できなくなった。このように、鮫川では復旧工事による人為的攪乱により、回復しつつあった底生動物群集が再び大きく変貌を遂げた。鮫川での知見は、自然災害による攪乱と人間活動による攪乱が、干潟生態系にそれぞれどのように作用し、その回復にどれくらいの時間を要するか(もしくは、不可逆的な改変か)を評価する上で、貴重な事例となると考えられる。