| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-348 (Poster presentation)
ツキノワグマは出生後1~2年間親子で行動を共にし,その後は単独生活をする大型哺乳類である.クマ類では交尾期にオスが特定のメスと行動を共にすることや特定のメスを独占する行動が報告されているが,個体レベルで交尾期の雌雄相互の近接行動,メス同士やオス同士の近接行動について明らかにした研究は少ない.本研究では,ツキノワグマのメス-メス,メス-オス,オス-オスそれぞれの個体間関係を明らかにすることを目的とし,GPS首輪を用いた個体追跡を行った.本発表では2012~2017年に長野県上伊那地域の中央アルプス山麓において捕獲されたツキノワグマの追跡データを用いた.追跡期間および利用場所の重複するすべての個体の組み合わせについて同一時刻における個体間距離を算出し,個体間距離が50m以下の場合に個体同士が近接関係にあったとした.1年あたりの分析頭数は6~21頭(メス3~6頭,オス3~15頭),全期間ではのべ81頭(メス30頭,オス51頭)を分析した.全ての個体の組み合わせのうち40%にあたる114ペアについて近接関係が明らかになった.近接は4~11月のすべての月で確認され,雌雄の組み合わせにより月ごとの近接回数が異なった.近接回数は,メス-オス>メス-メス>オス-オスの順に高く,異性間の近接関係を最も多く確認した.異性間の近接関係は一般的にツキノワグマの交尾期と考えられている5~8月以外に,9~11月にも確認した.近接行動の持続期間は,メス-オスで最大14日間と長期に及び,メス同士やオス同士では最大持続期間は3日だった.長期間の近接行動はオスが特定のメスを独占する行動と考えられた.メス同士の持続した近接行動は,メスが出生場所に留まることが多いことや血縁個体同士の行動圏が重複することと関係すると考えられた.