| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-349 (Poster presentation)
ニホンジカによる農林業被害や自然生態系への影響が深刻化している.適切な対策を講じるためには,ニホンジカの動きや社会性を正しく把握している必要があるが,捕獲作業や現地調査等で得られる目撃や痕跡の情報は断片的であり,それらをつなぎ合わせて想像するニホンジカの動きが正しいものとは限らない.
そこで,静岡県浜松市天竜区の佐久間町と龍山町にまたがる瀬尻国有林を中心とした地域で,2013年以降,16頭のニホンジカにGPS首輪発信器を装着し,位置情報を収集した.植生はスギ・ヒノキ人工林が多い.標高は1,000m以下で,冬季の積雪はほとんどない.
GPS首輪発信器で得られた位置データは単独測位によるものであり,マルチパス等による誤差の大きな測位点も含まれている.そこで,記録された水平座標に対応するDEM(数値標高モデル)の値をGISソフトウェアにより求め,GPS首輪発信器で記録された標高との差が30m以下,かつPDOP(位置精度低下率)が6.0以下の測位点を高精度測位点とみなして抽出し,行動圏の解析に使用した.行動圏面積は,2時間以上間隔の開いたすべての高精度測位点から,Home Range Tools for ArcGISを使用して固定カーネル法により求めた.
3頭の行動圏は独立していたが,残りの13頭は,他の追跡個体の行動圏と隣接するか大きく重複していた.前者は異なる群れの個体で,後者は同じ群れの個体と考えられた.95%行動圏は数十haの個体が多く,固定的で,隣接する異なる群れの個体の行動圏との重複は少なかった.
血縁でない周囲のメスの群れが互いに敬遠しあい,群れ内では血縁によって行動圏が共有,継承されることで,行動圏の固定化が進み,すみ分けが生じている可能性がある.群れの非重複性からは,捕獲やその効率化のための誘引は,そこを行動圏とする限られた群れにしか作用しないとも考えられた.