| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-350 (Poster presentation)
琉球列島の更新世の地層からは、陸生脊椎動物の化石が大量に発掘されている。中でも、シカ類の化石が多く、リュウキュウジカを含む複数種の存在が明らかとなっている。リュウキュウジカは、前期更新世にまだ地続きだった中国大陸から琉球列島に移入してきたと推定されており、更新世末期に絶滅するまで100万年以上にわたって琉球列島に隔離され、独自の進化を遂げてきたと考えられている。リュウキュウジカは体高が50cm弱と小型で、大型動物が島に入って小型化するという「島のルール」に合致している。こうした体サイズの変化と生活史特性は関連しているのだろうか。本発表では、化石を用いた古生物学的研究により、リュウキュウジカの生活史特性の一端を明らかにするとともに、現生のニホンジカの本土・島嶼集団と比較を行った。沖縄本島南部の洞穴から出土したリュウキュウジカの死亡齢構成を復元し、生存曲線を描いたところ、リュウキュウジカは極めて高齢になるまで死亡率が上昇しない、典型的なK戦略型の生存曲線を示した。最高齢も26才と推定され、同程度の体サイズの偶蹄類の約2倍であった。一方、現生ニホンジカも、生息環境により生存曲線のパターンは異なっていたが、リュウキュウジカのように極端に成獣の死亡率が低い集団はなかった。このことは、捕食者が不在で外的死亡率の低い島嶼環境で、リュウキュウジカの生活史特性がK戦略型にシフトしたことを示唆している。K戦略型の生活史を持つ動物は、成長や繁殖開始が遅く、個体数が激減すると回復が難しいことが知られている。リュウキュウジカは、約3万年前ごろに絶滅したと考えられているが、その時期はヒトが琉球列島に渡来した時期でもある。極端なK戦略型の生活史特性を持っていたリュウキュウジカが、直接・間接的な人為的影響により個体数を減らし、絶滅に追い込まれた可能性が示唆される。