| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-351 (Poster presentation)
日本の沿岸域の水産資源の多くは、virtual population analysis (VPA) と呼ばれる手法で資源評価が行われている。しかし、このモデルは、(1)年齢別漁獲尾数の観察誤差を無視する、(2)再生産関係(親子関係)を推定しない、(3)過剰適合により年齢別漁獲尾数の変動が大きい、(4)近年の推定値の不確実性が大きいといった問題点が存在する。近年、開発された状態空間評価モデル (State-space assessment model; SAM) はこれらの問題の解決が期待できるモデルである。SAMでは、年齢別の漁獲係数を多変量正規分布のランダムウォークで推定する。そのため、年齢別の漁獲係数や資源尾数はランダム効果となり、複雑な積分計算が求められる。そこで、ランダム効果を含む複雑なモデルを自動微分し、高速計算が可能な、Template Model Builder (TMB) と呼ばれるRのパッケージを用いて解析を行う。
本発表では、SAMをマサバ太平洋系群に適用し、VPAと比較した結果について報告する。Beverton-Holt型の再生産関係を仮定し、過剰適合を避けるために、年齢別の観察誤差や過程誤差にはAICを基準に制約を課した。資源量の変動パターンはSAMとVPAで似ていたが、特に近年においてSAMの推定値の方が低かった。これは、VPAでは近年上昇傾向が著しい指標値に加入量の推定値が大きく影響されるのに対し、SAMでは再生産関係を推定するため、指標値の影響が抑えられるからである。また、VPAでは漁獲係数が大きく変動したのに対し、SAMではその変動を平滑化したようなパターンが得られた。ブートストラップによって信頼区間を推定したところ、近年の推定値の不確実際はVPAよりもSAMの方が狭かった。さらには、SAMの方が、モデルの設定に対して頑健であることも明らかになった。今後はSAMによる資源評価の導入のため、モデル選択や診断の手法の開発や、シミュレーションを使用した推定精度の検証が求められる。