| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-360  (Poster presentation)

太平洋におけるアオウミガメ北限個体群の構造解析
Population structure of northernmost green turtles in the Pacific region

*浜端朋子(東北大学), 近藤理美(小笠原海洋センター), 松尾歩(東北大学), 陶山佳久(東北大学), 河田雅圭(東北大学)
*Tomoko HAMABATA(Tohoku University), Satomi KONDO(Ogasawara Marine Center), Ayumi MATSUO(Tohoku University), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku University), Masakado KAWATA(Tohoku University)

日本近海の黒潮域は、温暖な環境が形成されることに加え、熱帯域から生物が輸送されることで、生物多様性の非常に高い海域として知られる。アオウミガメは、全世界の温暖な海域に生息し、熱帯の砂浜を中心に産卵する種であるが、琉球列島や小笠原諸島においても北太平洋の北限として産卵する。これまでに世界中の産卵地のメス個体を用いて、ミトコンドリアDNAの配列を解析した研究から、成熟したメスが自分の生まれた産卵地に戻って産卵する母浜回帰によって、地域ごとに独立した個体群が維持されていることが明らかになったが、歴史的な地形変化や気候変動に伴って、集団間の分岐や交流が促されたと考えられる痕跡も様々な地域で見つかっている。日本の産卵個体群で検出されるミトコンドリアDNAには、小笠原諸島を中心に維持されてきたと考えられる固有系統と東南アジアやミクロネシアなど低緯度域の個体群から移入が起きたことを示唆する系統が混在する。検出される多くのハプロタイプが日本固有であり、低緯度の個体群とは有意な分化が示されているが、日本と低緯度地域の集団間で共通のハプロタイプも低頻度ながら検出される。そのため、地域間の遺伝的分化の程度については、十分に明らかになっていない。本研究では、日本産個体および低緯度産個体を用いてMIG-seqによって得られたゲノムワイドな変異を解析し、日本の個体群と低緯度個体群を比較した。その結果、琉球列島では、小笠原諸島からの系統と低緯度からの系統が交わる集団構造が観察され、ミトコンドリアDNAのハプロタイプ分布から示唆されていたように、過去に起きた低緯度からの個体の移入が、琉球列島の集団形成に大きく影響したと考えられる。小笠原諸島にも同様に低緯度からの移入はあったと考えられるが、琉球列島に比べてその規模は限定的であり、低緯度集団とは異なる系統が小笠原諸島を中心に維持されていることが支持された。


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