| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-363  (Poster presentation)

シカとサルを検知するためのボイストラップの有効性:カメラトラップとの比較から 【B】
Voice traps are more effective than camera traps to detect deer and primates 【B】

*江成広斗, 江成はるか(山形大学)
*Hiroto ENARI, Haruka S ENARI(Yamagata University)

野生動物管理に関わる制度や体制の強化を背景に、カメラトラップを活用した哺乳類の個体数や分布のモニタリング事業は近年各地で試みられるようになってきた。しかし、行政主導のモニタリング事業において、広域の山林をカバーし、事業の継続性を担保するための予算確保の困難さ、さらには経験の多寡に起因する調査者バイアス(設置個所や写真同定に起因するもの)などの課題もしばしば指摘されている。そこで発表者らは、対象動物が発する鳴声を指標としたボイストラップ(海外ではpassive acoustic monitoring、PAMと呼ばれる)をニホンジカとニホンザルを対象に開発した。生態音響情報を活用したモニタリング手法は、直接観察が難しい海棲哺乳類・鳥類・翼手目を対象にこれまで進められてきたものの、地上性哺乳類を対象とした関連研究は国内外ともに極めて限られる。本研究では、ボイストラップの有効性を検証することを目的に、対象動物の生息状況の異なる東日本各地の7調査サイトにおいて、対象種の検知率と検知可能範囲をカメラトラップと比較した。各サイトに、カメラトラップとボイストラップ(集音器:Song meter、Wildlife Acoustics社)を複数台設置し、録音された音声情報から、機械学習(隠れマルコフモデル)によって各鳴声(シカ3種類、サル5種類)の抽出と自動判別を試みた。総録音時間は9081時間(シカ)と8235時間(サル)であった。主な結果として、①対象動物が低密度の場合、完全な自動判別では偽陽性率が高いこと、②1000録音時間当たり1~2時間のスクリーニング作業(人の視聴覚による確認作業)を取り入れた半自動判別法では再現率(recall rate)0.7以上を達成可能であること、③ボイストラップの検知率はカメラトラップの数倍~100倍、検知可能範囲は100~1700倍であること、④鳴声は対象動物の在/不在情報だけでなく、個体群動態や社会構成の理解を補助する社会行動学的情報ももたらしうること、などが明らかとなった。


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