| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-373 (Poster presentation)
ダムは、世界各地の河川で遡河性サケ類の産卵遡上を妨げており、サケ類を利用する捕食者に対する影響が懸念されている。ダムがサケ類を利用する捕食者に対して与える影響を調べた従来の研究は、ダムの有無に応じて、それらの捕食者の成長率や餌資源が異なることに着目した研究が中心である。しかし、サケ類を利用する捕食者の個体群過程への影響を理解するためには、捕食者の生活史形質に与える影響を明らかにする必要がある。
知床半島の河川には、サケ類の産卵遡上を妨げるダムが多数残されているとともに、秋にサケ類の卵を捕食する淡水魚のオショロコマが広く分布している。このオショロコマを含むイワナ属の成熟のスイッチは、前年の秋から冬に存在し、成長条件の良い個体が成熟する。よって、卵食できるダム下個体群は、秋の成長が良く、成熟のスイッチが入りやすくなるため、成熟率が高まるとともに成熟サイズが小さくなることが予想される。また、卵サイズは産卵期直前までの成長条件に依存するが、卵食できるダム下個体群は産卵期直前の成長が良くなるため、卵サイズは大きくなるだろう。本研究では、知床半島の16河川でオショロコマの成熟サイズと卵サイズの変異を調べ、ダムの影響を検討した。
肥満度はダム上に比べてダム下で高く、ダム下個体群のみが卵食していることが示唆された。しかし、成熟率はダムの上下で異ならず、成熟サイズはダム下に比べてダム上で小さかった。この結果は、ダム下個体群の可塑的な応答ではなく、長年に渡り卵食できず、成熟閾値に達する個体が少なかったため、成熟サイズが小さくなったというダム上個体群の遺伝的な適応を示唆した。また、卵サイズはダムの上下で異ならなかった。これは、ダム上個体群が卵を食べられない環境に適応することで、最適卵サイズに達するために卵数を少なくし、卵サイズを大きくした結果なのかもしれない。