| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-375 (Poster presentation)
多くの硬骨魚類は陸上動物とは異なり,交尾を行わず体外で受精するが,一部の硬骨魚類は異なる系統で交尾を行う体内受精を進化させた.交尾行動の進化に伴い,精子の運動する環境は体外から体内へと大きく変化した.そのため,交尾行動の進化に起因する精子の運動環境の違いは,精子の形態や運動性に強く影響を与えると考えられる.系統の離れた種間の比較では交尾行動以外の様々な要因が関係するため,交尾行動が精子の形態や運動性をどのように進化させたのかを明らかにするのは難しい.しかし,交尾種と体外受精を行う近縁種(非交尾種)で精子の特性の差異や共通性を調べることで,このような問題点を解決できると考えられる.
本研究では,海産の非交尾種(クマノミ,スズメダイ,ナガサキスズメダイ,シワイカナゴ,tubesnout,キリンミノ)と,交尾種(ウミタナゴ,クダヤガラ,カサゴ,メバル)の精子の形態,遊泳速度,運動性を近縁種同士で比較することで,交尾行動が精子に与える影響について検証した.その結果,精子の全長と鞭毛長は,交尾種で長くなるか,ほとんど変わらないことがわかった.さらに,精子の遊泳速度は,種によって様々であった.精子の鞭毛は,遊泳力を生み出す部位であり,遊泳速度と正の相関を示すことが予測されたが,全く異なる結果となった.また,中片形態も交尾種,非交尾種で様々であり,交尾行動の影響は見られなかった.一方で,頭部の形態は,1ペア(シワイカナゴvsクダヤガラ)を除き,交尾種で長くなった.体内環境(卵巣内)は,体外環境(海水中)に比べて粘度が高い.そのため,粘性のある環境中で,抵抗を減らすために頭部が伸長したと考えられた.さらに,非交尾種の精子は海水のみで,交尾種の精子は体内環境を再現した等張液のみで運動した.以上より,本研究は,交尾行動が精子の頭部形態や運動性に大きく関わることを初めて明らかにした.