| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-376 (Poster presentation)
マイワシなどの小型浮魚類では気候などの変化に伴って産卵場が時空間的に変化する。しかし、産卵場の時空間変化がマイワシの初期生活史における生残に与える影響については知見が少ない。そこで本研究では、対馬暖流域に分布するマイワシの産卵場の位置が経年的に変化することに注目し、海域ごとの卵と前期仔魚の比率から、産卵場の位置の変化が卵の生残に与える影響を調べた。解析には1980年から2014年に、東シナ海および日本海で実施された卵稚仔調査データを用いた(2,129地点で合計39,281回)。採集データを基に、マイワシ卵の有無および卵数を目的変数、年、月および表層水温を説明変数としたGLM Tree(Ichinokawa and Brodziak 2010)によって、産卵場を4つの海域(九州-山口、山陰沖、能登半島周辺、日本海北部)に区分した。次に前期仔魚数を目的変数、卵数と産卵場海域を説明変数、調査年と1月1日からの経過日数をランダム効果としたGLMMにより、海域ごとの卵数と前期仔魚数の関係を評価した。卵数に対する前期仔魚数の比率は南西の海域ほど高いことがわかった。卵数に対する前期仔魚の比率は九州-山口で最も高く、次いで山陰沖で高くなった。能登半島周辺と日本海北部の2つの産卵場では比率は変わらなかったが、両海域とも前述の2海域より低かった。つまり、山陰沖の産卵場と能登半島周辺の産卵場との間に卵の生残率を大きく変える環境の違いが存在する可能性がある。対馬暖流域に分布するマイワシは1988年を境に加入量が減少したが、産卵量も1980年代から90年代にかけて九州-山口から山陰沖の産卵量が顕著に減少し、能登半島周辺や日本海北部が主産卵場となった。卵の生残に好適な場での産卵量の減少が加入量の減少につながった可能性が考えられる。