| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-377 (Poster presentation)
2016年に世界中で大規模なサンゴの白化現象が報告され,沖縄周辺に生息するサンゴにおいても白化がみられた.ダメージを受けたサンゴは生命維持にエネルギーを割き,繁殖のためのエネルギーが不十分になることが予想される.サンゴの繁殖がうまくいかなければサンゴの数がますます減少し,生態系に影響が出ることが危惧される.そこで本研究では,枝状であるトゲスギミドリイシを対象に,白化による繁殖への影響を明らかにすることを目的とした.
沖縄県本部町瀬底島南端に生息するトゲスギミドリイシ5群体を対象とした.それぞれにタグをつけ,2016年4月から2017年9月まで月に一度,海中における群体の写真撮影と枝片採取を行った.産卵直前に約20個のポリプを解剖し,卵母細胞の有無を確認した.また,両年とも産卵直前に各群体の一部を採取し,屋外水槽内で維持した.産卵確認後,各群体につき20個前後のバンドルあたりの卵数と卵サイズ,精子濃度を測定した.さらに,交配実験により受精率を算出した.
2016年10月にすべての群体において白化がみられた.白化の程度は群体によって異なっていたが,12月にはすべての群体が完全に回復した.産卵直前の観察より,白化後の2017年は卵母細胞を持つポリプ数の減少が示された.また,1バンドルあたりの卵サイズに変化はみられなかったが,卵数は2017年にやや減少しており,精子濃度については1/10以下という顕著な減少がみられた.一方,受精率は両年で変化はみられなかった.
以上の結果より,今回の白化はトゲスギミドリイシに対して配偶子数,特に精子の減少を引き起こしたといえる.卵母細胞形成は産卵の2か月後,精母細胞形成は冬季に開始されることから,白化は精子形成へ大きく影響したと考えられる.また,精子数減少により,配偶子が放出されても受精機会は大きく減少することが予想され,白化が続くことで集団の幼生生産量および加入数が減少すると考えられる.