| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-388 (Poster presentation)
小笠原諸島・媒島の植生は,野生化したヤギによる採食行動や踏圧を発端に衰退した履歴を持っており,現在はその回復過程にある.このような生態系において植生の生産性を制限しているのは,多くの場合,植物必須多量元素である窒素(N)である.媒島におけるNの起源は,(1)微生物等による固定,(2)海鳥による海洋生態系からの持ち込み,(3)雨水・海水・海洋からの直接的な供給,が想定できる.これらのNが植物体内に取り込まれた後は,主として植物遺体として土壌中に供給され,土壌中に蓄積あるいは植物に再利用されていく.本研究では,土壌中および植物体中のN安定同位体比(δ15N)を測定することにより,媒島の植物が利用しているNの起源を推定した.
土壌流出が激しく起こった裸地3地点では,土壌中N含量は非常に低く,δ15N値は4.8~7.3‰であり,これらは雨水・海水・海洋から直接的に供給された可能性が考えられた.在来木本植物で構成される2地点では,土壌中のδ15N値は11.7~16.8‰であり,これらは海鳥由来と考えられた.ここに生育する植物は,体内のδ15N値も概ねこの範囲内にあったため,海鳥由来のNを利用していると考えられた.外来のマメ科木本植物であるギンネムが生育する二次林2地点では,土壌表層でδ15N値が低下する傾向がみられ,最表層では5.2~5.9‰まで低下していた.これは,ギンネムの共生微生物が固定したNが土壌表層ほど多く混入した結果と考えられた.この場所に生育する植物のδ15N値は,ギンネム(0.8~1.8‰)を除いて土壌中Nの同位体比をほぼ反映していたため,ギンネムは共生微生物起源Nを,その他の植物はギンネム由来Nの影響を受けていると考えられた.草原植生下の土壌と植物ではδ15N値はさまざまであり,海鳥の影響,雨水・海水・海洋からの影響に加えて,土壌流出によって高標高地から運ばれてきたNの影響を受けている場合などが想定された.