| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-394 (Poster presentation)
木本性つる植物は樹木と比べ,茎基部の断面積(基部面積)に対して大きな葉量を保持している.相対的に茎の通導面積は小さくなるが,つる植物は個々の導管径を大きくし,よって茎内の水分通導効率を高めることによりこれを補償する.この特徴を林分スケールに拡大して考えると,つる植物群集はその基部面積から予想されるよりも大きな影響力を,森林の水動態に対して持つ可能性がある.これまでに水動態に対するつる植物の潜在的な重要性は指摘されていたが,その影響力が定量的に評価された例はほとんどない.
本研究では,九州大学福岡演習林に生育する常緑つる植物4種(サカキカズラ、ハマニンドウ、テイカカズラ、カギカズラ)を対象に樹液流測定法(グラニエ法)の適用を試みた.同所生育する樹木4種(アラカシ,タブノキ,クスノキ,シラカシ)と共に1年間の樹液流測定を行い,結果のスケールアップによって林分蒸散量に対するつる植物の貢献度合いを評価した。
つる植物の茎基部の樹液流速は,平均して樹木の2~4倍ほど高い値を示した.その日周変化,季節変化の様子には,両者に明確な違いは認められなかった.調査プロット内の毎木情報を用いて樹液流データをスケールアップしたところ、この林分の年間蒸散量に対して,つる植物は12.8%の貢献があると推定された.これは,林分の基部面積に占めるつる植物の割合(2.3%)の5.7倍に相当していた。本研究の結果は,森林の水動態に対してつる植物が無視できない影響を持つことを示すと共に,森林全体からみればわずかに見えるつる植物の増加が,森林の水・炭素動態に大きな変化を引き起こす可能性を示唆していた.