| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-407 (Poster presentation)
水域生態系の一次生産を律速する養分物質のうち,窒素(N)は水中での挙動が非常に複雑である。水域の堆積物中ではしばしば嫌気的となり,脱窒による硝酸塩(NO3-)除去の他,近年では独立栄養細菌による亜硝酸塩(NO2-)・アンモニウム塩(NH4+)からの窒素ガス生成(アナモックス),従属栄養微生物によるNO3-からNH4+への異化的硝酸還元(DNRA)の重要性が指摘されている。本研究では,東日本大震災によって河川河口域に創出された塩性湿地においてNO3-除去プロセスを評価した。湿地は横を流れる河川と土管1つでつながっており,上げ潮時には河川水や海水が流入し,下げ潮時には湿地水が沿岸へと流出する。塩性湿地内の潮間帯,潮下帯からそれぞれ2点ずつ堆積物を採取した。採取した湿地堆積物に対して湿地水を加え,15N同位体トレーサー法を導入したスラリー培養実験を行った。各地点の脱窒・DNRAのポテンシャル速度を求め,震災湿地の形成が沿岸域のN動態に与えた影響を考察した。脱窒速度は2.9~32.8 nmol-N g-1 h-1,DNRA速度は24.8~177.2 nmol-N g-1 h-1の範囲であった。アナモックスについては本調査地では検出されなかった。NO3-除去プロセスに占めるDNRAの割合は潮下帯で43~60 %,潮間帯で87~98 %と,潮間帯の方が高かった。嫌気的な堆積物中において,脱窒はNO3-が豊富な環境,DNRAは有機物が豊富な環境で進行しやすいとされる。本調査地ではヨシなどの植物が生育し,植物プランクトンや周囲の森林から供給されるリターなどが集積しやすい潮間帯の堆積物の方で有機物含量が高く,湛水時にDNRAが進行するものと考えられた。一方潮下帯では,河川や沿岸由来のNO3-が常に流入し,水流によって堆積物も攪乱されることから有機物含量に乏しく,脱窒が主要なNO3-除去プロセスとして機能しているものと考えられた。