| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-411 (Poster presentation)
森林土壌では、地形や斜面位置によって土壌中に存在する微生物の量や種類、土壌の物理性や化学性が異なり、これらは窒素循環を制御する重要な要素であると考えられてきた。また実際に、斜面位置によってNH4+生成やNO3-生成の空間分布にコントラストが生じる現象が多く報告されている。斜面スケールでは気候等のマクロな要因の変動が無視できるため、土壌固有の性質(生物性・化学性・物理性)と窒素循環を対応付け、その制御機構を検証するのに適当な環境だと言える。
そこで、渓流水中に流出するNO3-濃度が異なる3つの森林流域(千葉県袋山沢試験地、神奈川県大同沢流域、群馬県大谷山試験地)の森林斜面を対象に、斜面上・中・下部から0-10cm深土壌を採取し、窒素安定同位体(15N)希釈法を用いてNO3-とその基質であるNH4+、硝化の中間生成物であるNO2-の生成・消費速度を定量した。これにより、各斜面における窒素循環の空間的差異を明らかにし、その差異を生ずる要因について検討した。
3つの森林においてNH4+生成速度は3.16-11.3, NO2-生成速度は0-30.8, NO3-生成速度は0.02-6.56 mg kg drysoil-1day-1であった。同一サイト内での各無機態窒素生成速度の分布パターンは一致せず、基質の供給速度は硝化活性の空間分布を説明しなかった。一方で、体積含水率(VWC)とNO2-,NO3-生成速度はいずれもVWCが60%付近で極大をとる分布を示し、これは3地点全てに当てはまった。さらに、袋山沢の土壌の含水率を操作してNO2-生成速度を測定したところ、同様にVWC60%付近で極大を示し、NO2-生成を担う微生物にとって好適な水分条件であることを支持した。この時の生成速度の極大値は土壌によって異なったが、この値は硝化微生物数に依存することが定量PCRの結果から示唆された。以上より、同一サイト内での硝化の空間分布は、VWCにより硝化微生物数を介して制御されるが、サイト間での硝化速度の差はVWC以外の要因が主要であることが示唆された。