| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-415  (Poster presentation)

熱帯山地林におけるミミズ土壌耕転に伴う無機態窒素・リンの林分レベル供給速度
Production rates of soil inorganic nitrogen and phosphorus at a forest scale through the cast production of earthworms in a tropical montane forest.

*中野正隆, 横山大稀, 北山兼弘(京大・農・森林生態)
*Masataka NAKANO, Daiki YOKOYAMA, Kanehiro KITAYAMA(Kyoto University)

キナバル山高標高地域(標高2700 m以上)は気温が低く、土壌窒素・リンの可給性が低いものの、熱帯山地林の生産性が維持されている。森林生態系が維持できている要因として、ミミズによる土壌窒素・リンの可給化が考えられる。林内ではフトミミズ属のPheretima darnleiensis(Fletcher. 1886)がタワー状の糞塊(cast)を地表に多数形成している。Pheretima darnleiensisが属する深層種は表層のリターを摂食するため、糞塊生産による有機物の無機化によってアンモニア態窒素、可給態リンが増加していると考えられる。本研究では糞塊とbulk土壌の可給態窒素・各リン画分濃度を測定し、糞塊による窒素・リンの可給化を検証することに加え、詳細な糞塊生産速度を測定し、ミミズの糞塊生産が林分レベルでどれほどの効果を及ぼしているのかを評価することを目的とした。
調査地はボルネオ島キナバル山の、糞塊が多数みられる標高2700 mの2サイト(27U:蛇紋岩土壌、27S:堆積岩土壌)とし、bulk土壌と糞塊の無機態窒素濃度、各リン画分濃度、全炭素・窒素濃度を測定した。また、50 cm×50 cmのプロットを各サイト25個設置し、2018年2月から12月までの糞塊生産量を測定した。糞塊生産量に可給化された窒素・リン濃度を掛け合わせ、林分レベルの糞塊による無機化速度を求め、森林の窒素・リン吸収量(Kitayama et al. 2015)に占める割合を算出した。
アンモニア態窒素濃度、可給態リン濃度はbulk土壌に対して糞塊で有意に増加した。糞塊のCN比がbulk土壌に対して有意に高いことから、リターが摂食され、有機物の無機化により無機態窒素・リンが増加したと考えられる。森林の窒素・リン吸収量に対するミミズ糞塊生産による可給化の割合は、窒素で約2.3%、リンで約4.5%と算出された。坑道に粘液を分泌し、微生物の活性化を促すなどの間接的効果も含め、ミミズの糞塊生産は窒素・リン可給化を促す大事な要因であると考えられる。


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