| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-416 (Poster presentation)
原子力発電所の事故等によって環境中に放出される放射性元素のセシウム137(137Cs)、ストロンチウム90(90Sr)は、それぞれの同族かつ植物の必須元素であるカリウム(K)、カルシウム(Ca)の吸収・輸送と共に草本植物に取り込まれるという研究事例があるが、木本植物の事例は少ない。これらの放射性元素は樹木に吸収されて、長期的な放射性物質汚染の原因となるため、放射性Csだけでなく、放射性Srの樹体における動態を解明することも重要であると考える。そこで、植物体中において、放射性Cs・Srと似た挙動をする安定同位元素の133Cs、88Srをそれぞれ代替として、土壌~樹体における133CsとK、88SrとCaの関係を、コナラ(Quercus serrata)萌芽枝の当年成長部位(当年枝)を用いて明らかにした。また、88Srと同族で、植物の必須元素でもあるマグネシウム(Mg)との関係も明らかにした。2016年12月~翌年5月に、福島県田村市都路町にて、0~5年生のコナラ萌芽当年枝と萌芽株近傍の土壌を採取し、当年枝及び土壌の交換性(1M酢酸アンモニウム抽出)の各元素濃度をICP-MSで測定した。交換性元素については、濃度と土壌密度から含有量を算出した。交換性K含有量と当年枝133Cs濃度との間には、負の非線形関係が認められたが、交換性Ca・Mg含有量と当年枝88Sr濃度にはそれぞれ有意な関係が認められなかった。また、交換性133Cs含有量と当年枝133Cs濃度、交換性88Sr含有量と当年枝88Sr濃度には有意な関係が認められなかった。当年枝のCa濃度と88Sr濃度には正の線形関係が認められたが、K濃度と133Cs濃度及びMg濃度と88Sr濃度には有意な関係が認められなかった。以上の結果より、コナラ萌芽枝の133Cs濃度は、土壌の交換性K含有量の影響を受けるが、樹体内の濃度分布はKと異なり、一方、コナラ萌芽枝の88Sr濃度は、樹体中のCa濃度の影響を受けるが、交換性及び当年枝のMgは、影響を及ぼさないと考えられる。よって、Ca濃度の高いコナラは、放射性の90Sr濃度も高くなる可能性がある。