| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-423 (Poster presentation)
群馬県館林市に位置する茂林寺沼湿原は館林台地の開析谷に形成された低層湿原で、1960年に群馬県天然記念物に指定されて以降、埋め立て・宅地化・河川改修等の開発の拡大、生業としてのヨシ刈りの停止に伴う遷移進行等によって、湿原植物群落の衰退が顕在化している。
本研究では湿原の地下水位の現況把握を目的として30地点の観測井を設置し、2013~2014年に地下水位を測定した。また、地下水位と植物群落との対応関係を把握するため植物社会学的な植生調査を実施した。
検討の結果、地表面を0cmとした地下水位の年平均値が-3cm以上を示すのは3地点のみで、13地点は-3cm~-10cm、12地点は-10cm以下を示し、地下水位の低下が広範に生じていた。ウキヤガラ-マコモ群集の地点の地下水位は年平均値-3.3cm、カサスゲ群集は-5.2cmであるのに対し、ヨシ群落では-13.2cm、アキノノゲシ-カナムグラ群集では-24.5cmを示し、湿原植物群落の成立は地下水位が高い地点に限られた。また、冬季の1月、多くの湿原植物の生長時期にあたる4~5月、7~8月に地下水位が低下する季節変動が認められ、QGISを用いて不足水面図を作成したところ、これらの低下期には湿原中央部での不足水域が拡大する傾向にあった。さらに、作成した現存植生図と1986年の植生図を比較した結果、ヌマガヤ-ノハナショウブ群落等の消失、カサスゲ群集の縮小、ヨシ群落やオギ群落の拡大等が生じていた。
以上から約30年の間の湿原植物群落の衰退の一要因として、集水域の狭域化や水源の分断化による地下水位の低下が示唆された。今後、湿原植物群落の保全対策を実施するうえでは、不足水面図から試算された10,000~20,000㎥程度の水量確保が必要であり、特に湿原植物の生長時期において地下水位の季節変動を緩和する方策が急務であることが推察された。