| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-425 (Poster presentation)
西南日本の丘陵地を中心に広く分布する鉱質土壌湿原(地表面に泥炭がないか、わずかしか認められない湿性草原)には、絶滅危惧種や地域固有種が多く生育する、保全上重要な生態系である。この種の湿原の形成される場所の環境を調べるため、主に2016年から2018年にかけて、20府県約140カ所の成立地の気候・地形・標高・地質・面積・水質・周囲の植生等を現地調査および既存資料に基づいて把握した。
調査した湿原の立地する標高は0mから700mの範囲に分布し、また面積はほとんどが10m2程度から1ha未満と、比較的低標高・小面積という共通した特徴がみられた。その一方で、湿原が形成される場所の地質は花崗岩類や非固結の砂礫層が目立つものの多様性に富み、地表水もpHが5~8、電気伝導度が20μS/cm程度から200μS/cm以上と幅があった。地下水の湧出しやすい地形構造がみられる、人為的影響の強い植生が周囲に広がるといった調査した湿原をほぼ通じる共通点も見いだされたが、具体的な地形タイプや植生タイプには多様性が見られた。
鉱質土壌湿原とその基盤である湧水湿地について、これまで、狭い範囲での調査に基づいて、形成される場所が地質と強く結びつけられたり、水質が酸性・貧栄であるとされたりといった理解がされてきた。しかし、広範囲にわたる調査を行うことで、鉱質土壌湿原は、ある程度の共通性を持ちつつも、実際にはより多様な環境の中に成立していることが明らかとなった。