| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-426 (Poster presentation)
生物多様性は、「生態系の多様性」、「種多様性」、「遺伝的多様性」の3つの多様性から成り立っている。近年の研究では、種・遺伝的多様性の損失が人間社会に不利益をもたらすことが指摘されている。例えば、種多様性の損失は一次生産や栄養塩循環などの生態系機能の低下・不安定化を引き起こし、炭素貯留や水質浄化といった生態系サービスの量や質を変化させる。また、遺伝的多様性の損失は有用性のある遺伝資源の消失リスクを高め、それが種内・種間どちらの話であれ、未来の人間社会の発展を阻害する。では、生態系の多様性の損失はどうだろうか。もちろん、生態系の多様性の損失は種・遺伝的多様性を低下させ、上述の不利益をもたらす。しかし、これはあくまで生態系の多様性の損失の間接的な影響であり、それ自体がもたらす不利益ではない。一般的に、生態系の多様性は、生物種や生態系サービスを支える基盤としての重要性が広く認識されており、保全施策や計画においては種・遺伝的多様性の維持・向上にのみ焦点が当てられることが多い。仮にもし、生態系の多様性の損失によって直接的に不利益がもたらされる場合、今後の保全施策策定には景観の比類似性を考慮していく必要がある。本研究では、生物地理学的地域のひとつであるエコリージョンに着目し、その多様性の損失が地球規模の純一次生産(NPP)の安定性に与える影響について解析した。より具体的には、衛星リモートセンシングより推定された2001~2014年までのNPPデータ(MOD17A3)と気候・地形情報を用いて、各エコリージョンのNPPの時間的なバラツキを生み出す要因を特定した。次に、生態系の多様性損失が地球規模の純一次生産の安定性に与える影響をシミュレーションによって検証した。発表では、これらの結果をもとに生態系の多様性を保全することの意義について議論する。